隠居の独り言(1061)

平成7年の地下鉄サリン事件で特別手配されていた菊池直子容疑者が捕らえられた。
彼女のオウムへの入信は高校生時に部活のランナーの疲れを癒そうとマッサージに
通いだし勧められたのが最初とされる。性格は素直で明るく誰からも好かれていた
少女がふとしたことから人生を棒に振ってしまったケースは何も彼女だけではない。
女が男と根本的に違うのは思い込んだら信心にしろ愛情にしろ一途になってしまう。
哀しい女の性は、例え罪を悔い自首する理性があっても男との情愛が絶ち切れずに
17年にも及ぶ逃亡生活を続けてしまう。身柄を確保されたのは相模原の錆だらけの
住宅だったが17年の歳月は手配写真とは同一人物とは思えないほどのやつれた姿に
女の悲しさを如実に物語っている。それに彼女の父母や家族にとって何と痛わしく
肩身の狭い生活を強いられたか想像を絶する。昔読んだフランス作家モーパッサン
女の一生」を思い出す。それはノルマンディー地方貴族の一人娘ジャンヌの物語で
近隣の青年貴族ジュリアンとの出会いと結婚、父と母の死、母の生前の情事の発見、
夫の浮気と死、友人の裏切り、息子がパリで知り合った女に生ませた孫の引き取り等
社会のどこにもありそうな事件を書いた本で、けっして波乱万丈や恋愛小説でないが
主人公ジャンヌの運動好きで明るい性格は、どこか菊池容疑者に似ている気がする。
もし菊池直子が真っ当な人生を歩んでいたらそれなりの幸せも得たかも知れないが、
それだけに「女の一生」を誤った彼女が哀れでならない。「もう逃げなくていい」と
逃亡生活から解放された安堵から菊地は言ったが関わった事件を全て明らかにして、
ほっとするのはそれからなのは言うまでもない。思えば人の心とは実に弱いものだ。
松本智津夫という一人の極悪人のために多くの優秀な人がマインドコントロール
たった一回の大切な人生をどぶに捨てた事実は取り返しがつかないが一番の悪人は
教祖の麻原であって彼一人が罪の全部を背負って極刑に服すべきだろう。間もなく
最後の手配人高橋容疑者も捕まるだろうが麻原一人の指令の下、命令されるままに
犯行に加わった犯人等は別の視点から見れば可哀相な人たちと思う。