あじさい

harimaya2012-06-11

家の箱庭の片隅のあじさいが色づき始め
東京も梅雨時に入った。あじさいの花を
女心と結びつけてしまうのは永井荷風
作品の読み過ぎか?移ろいやすい女心を
描く荷風独特の人情話は「ひかげの花」
「つゆのあとさき」「あじさい」などなど・
この時期をかぶせた題名の作品が多い。
荷風の自叙伝である名作「墨東綺譚」で
遊女お雪と知り合ったのも降り出した雨が縁だった。荷風文学の真髄は女性を描く事
特に社会の底辺に生きる女性達に目が向けられた。そのため紅燈を求めることが多く
それは女性に真の愛を求める荷風の人生への探究でもあった。遊郭でお雪と出会った
荷風は社会の底辺の世界に生きながらも清らかな彼女の心底に運命的なものを感じる。
57歳だった荷風に年齢のひらきのあるお雪と結婚するには互いの境遇が違い過ぎたが
それでもお雪の純情さに惹かれた荷風は彼女と結婚の約束をする。だが昭和20年3月
東京大空襲の戦火でお雪と別れ別れになってしまう。昭和27年にお雪は新聞で荷風
文化勲章受章者を受けた記事を見て驚くが、あの人がまさかこんな偉い人ではないと
決めてつけてしまう。そして2人は二度と出会うことはなかった。孤独の中に信ずる
道を歩み続けた荷風は昭和34年に家で誰に看取られることなく80歳の生涯を終える。
あじさいが咲くこの時期、生前の荷風は生き生きとしていたのだろう。