隠居の独り言(1130)

NHK大河ドラマ「八重の桜」の舞台となっている会津藩は数奇な運命から生まれた。
ドラマの背景の200年以上前の出来ごとだが徳川家康が将軍職の家督を譲った秀忠の
夫人への律義さから出ている。秀忠の夫人は「江」といい織田信長の妹の市の方の娘、
豊臣秀吉の愛妾、淀殿の妹に当たる。一昨年の大河の主人公だが彼女は異常なばかりの
ヒステリックな性格で秀忠の傍には常に監視者を置き、いささかの浮気も許さなかった。
でも当時の大名は側室を抱えるのがしきたりのようで子孫繁栄のため常識的であった。
秀忠も性格的に小心で憶病なのか武将として信じられぬほどに夫人を怖れ耐えていた。
ただし一度だけ例外があった。ある日のこと城の廊下で擦れ違った「静」という待女を
一目ぼれして一度だけの逢瀬に身も心もときめいた。公の城内での逢引きは困難なので
庭園内の休憩所なのか、木々の茂みの中なのか、逢瀬の場所は今となっては定かでない。
幸か不幸か静は一度だけの情事で妊娠した。小心な秀忠の狼狽は察するに余りあるが
静が男子を出産したために急いで母子ともに江戸城から信州の高遠城へやり保科家の
養子として育てられた。そして秀忠は生涯に亘って自分の子と会うことは叶わなかった。
男子はやがて成長し保科正之と名乗り三代将軍家光に仕えた。正之は文武両道に長け
教養人で名君でもあり将軍家光にも可愛がられて累次加増され寛永20年(1643)には
会津23万石の膏沃な土地を拝領し徳川一門の大名として松平を名乗るようになった。
将軍・秀忠のただ一度の浮気が無かったなら会津藩は存在しなかったし戊辰戦争での
薩長側が目の敵にした会津藩の絶望的な悲惨な戦いも無かったろう。今にして思えば
無駄ともいえる東北地方の内戦も避けられ日本史も大きく変わっていたかもしれない。
歴史の境目はそんな些細なもので人の出逢いと別れが其の後の国家の運命も左右される。
大河3回目の題は「蹴散らして前へ」だが、ストーリーの一部は桜の木の上で砲術本を
無心に読んでいる八重(綾瀬はるか)は、毛虫に驚いた拍子にその本を落としてしまう。
そこへ若い武士が通りその本を拾い上げてくれる。それは江戸から覚馬(西島秀俊)を
援助しようとやってきた尚之助(長谷川博己)だった。未来に夫になる人だが今は知る
よしもない。よき協力者を得て蘭学所の整備を急ぐ覚馬だったが藩の守旧派の反感を買い
禁足を命じられてしまう。