隠居の独り言(1141)

「ウナベス ナダマス エミウエルト ブリジョ ラ エンスペランサ」小声で二度
誦する。一息入れて「ラ エスペランサ ケア ルンブエル カミノ デ ミソレダ
散歩のとき、通勤のとき、現在歌っているスペイン語の歌詞を暗誦しながら歩いている。
歌はラテンの名曲ソラメンテウナベス(Solamente una ves)の一節で最高のお気に入りだ。
ライブのときは譜面台を置かずに演奏するので歌詞の暗誦と楽器の暗譜は欠かせない。
演奏する楽しみはもとより観て聞いてくださっている方にパフォーマンス、ルックス、
ナレーション等々、一味加えるのが会場の雰囲気を良くし、それは演奏者の美学と思う。
もともと記憶力が弱いうえ齢を重ねる毎に脳細胞が衰えるから回数を増やすしかない。
だから時間や場所などところ構わず口ずさむことにしている。所属するラテンバンドの
メンバーは超一流の方ばかりでテクニックはもとより練習時にもスペイン語が混じり
ラテンが好きならもっと早くスペイン語の勉強をすればよかったと今は後悔しきりだ。
そんな春先のある日、何やらぶつぶつ独り言を言いながら歩いている人と擦れ違った。
今までなら変なオッサンかと思っていたが、この日はどういうわけか微笑ましく思った。
彼も詩を詠っているかも知れない。世間は色々な人がいると見る目も変わった気がする。
調子に乗ってくると、つい声も大きくなる。擦れ違う人に変に思われるも恥ずかしい。
ほら、向こうから人がやってくる。いまサビの部分だが仕方なく声を落してやりすごす。
大きな声で歌うのは車の運転中や人のいない道の散歩中だが普段は心の中で口ずさむ。
歌う行為は呼吸器の運動で楽器は神経の刺激によく健康にいいのはいうまでもないが
歌詞や楽譜を暗ずるのも記憶力の活性化に繋がる。自分は戦前の教育の詰め込み主義で
天皇系図教育勅語軍人勅諭百人一首、藤村や啄木の詩集など暗誦をさせられたが
今も鮮やかに出てくる。少年には意味も分からなかったが暗誦を命じた先生が懐かしい。
こうして今も暗誦の楽しみを覚えるのは、あの厳しかった恩師のお蔭と感謝している。
寝るときも昔覚えた合唱曲を暗誦すれば安らかな睡眠に導かれて一日の疲れが消える。
素敵な歌がある。「遥かな友に」だが、今夜も静かに口ずさみながら眠りに入っていく・・
♪しずかな夜ふけに いつもいつも 思い出すのは おまえのこと おやすみやすらかに
たどれ夢路 おやすみたのしく 今宵もまた・・zzzzzzzzzz