隠居の独り言(1246)

新聞にこんな投書が載っていた「私は妊娠八ヶ月、ある日、マタニティマークをつけて
電車の優先席の前に乗ったら、座っていた若者に、うんざりした顔をされたうえに
寝たフリをされ、他の誰も席を譲ってくれなかった」自分はこの記事を見て、今どきの
若者の無神経にも腹立たしいが、別の観点からも不愉快になる。それは若者と同じく
妊婦が大きなお腹を抱えて難儀をしていれば誰かが席を譲ってくれると期待するのも
世間への甘えであり投書する妊婦もしっかりしたい。昔の電車は優先席などなかった。
誤解を恐れずに言えば妊婦が心身ともに苦労するのはこれから母となる準備であり
やがて陣痛を体験するのも母性愛の源であり、身体を痛める愛は貴重なものと思う。
これからの子育てを思えば優先席での不満を言っているようでは先が思いやられる。
なまじ優先席という「弱者救済」とやの名目を設けるから人は甘える。困っている人に
席を譲る親切な人なら優先席でなくても席を立つだろう。好意を期待するから却って
不幸の原因になる。人の感情として知らぬ人には優しさに欠けると思ったほうがいい。
電車の車掌はしつこいほど「優先席付近のお客様は携帯の電源をお切りください」と
ペースメーカーを付けている心臓病患者を気遣っているが電源を切る人は絶無だろう。
絶無どころか優先席に座る資格のない若者はスマホに夢中になって電波は飛び回る。
通勤時間帯に「女性専用車」が設けられているが小数の痴漢防止のために1車両を
使うなら、監視カメラの設置で充分だ。「優先席専用車」の方が多くの乗客に喜ばれる。
不運を抱えている人には公の機関が助けるのは当然だが、発想の転換も必要だろう。
大切なのは個人の心の優しさだということを忘れている。人は相手への同情、慈悲、
愛情などの諸経験を経て初めて人間になる。しかし現代の人は「いざとなったら国が
助けてくれる」と、組織による救済をアテにして昔の「知恵と慈悲」の心を失っている。
話変わって世界の誰もが言うことだが阪神・淡路大地震、そして東日本大震災の後で
略奪、放火、騒擾などの被害は皆無だった。これは、どこの国でも考えられないことで
基を質せば長き伝統の教育の賜物だろう。日本人の慈悲の精神は世界に誇っていい。
それが崩れようとしている。何でもしてもらって当たり前。少しでも自分が苦労するは
政治の貧困と相手のせいにする甘えの心理が蔓延している。親が甘やかした代償は
優先席で平気でスマホで遊び、身障者への配慮もなく優しさの歪みは治りそうもない。
こんな若者がやがて大人になっていく。日本人の美徳に暗雲が立ち込めている。