隠居の独り言(1271)

自分が生まれた昭和初期の頃の長い日本の歴史の中で最も輝いていた時期だった。
正確に言えば明治38年(1905)から昭和15年(1945)までの40年間だけが日本史の
大きな拡張であったと言える。当時の日本地図を見れば、北は樺太千島、南は台湾、
それと南洋諸島、大陸には朝鮮半島満州国までが勢力範囲だった。明治38年
苦労の末、勝利した日露戦争終結の年だ。今も昔も大国であるロシア相手に辛うじて
勝った戦争は日本の2000年近い歴史の中で稀有の出来事で国家観念が出現した。
アジアの小国、日本がロシアに勝てた理由の一つは江戸期から培われた日本人の
気概ある精神性が極めて高かったことが挙げられる。でも勝利により日本人特有の
謙虚さが奢りに変化したのが悔やまれる。それは日露戦争後5年に韓国を併合した。
数千年の文化と民族的自負心の強い韓国を併合したことで子々孫々に亘って恨みを
買ってしまったことは国家的後悔だろう。当時の世界は白人によるアジア・アフリカの
植民地時代で現地人を奴隷的に働かせたり、過剰な商品を売りつける植民地主義
まかり通っていたが、なにも日本が猿真似をすることはなかった。韓国を奪ってみても
この段階で日本の産業界で過剰なものは何一つ無かった。何のために韓国を侵略して
日本を肥大化する理由とは何処にも考えられない。それどころか日本の国家予算の
大半を植民地に使う反面、日本人が貧しくなる算盤勘定は今に思えば滑稽にみえる。
自分も大きな日本に生まれた幸せを感じ、軍国少年に志した馬鹿らしさが恥ずかしい。
戦争に負けるのは惨めだが日本として元の四つの島に戻って本当に良かったと思う。
冷静に考えれば国が大きくなるということは人口が増えて様々な人種が混同していく。
長年培われた日本人特有の優しさ、正直な勤勉さを持ち何事も正確にこなす美徳が
損なわれてしまうし、治安悪化も懸念される。日本人だけで暮らすのが幸せの原点だ。
一民族一国家が理想であり民族的な感情はそれぞれが持つ伝統と親密感の結晶だ。
それでも未だ歴史を学ばず欲深い国家の存在も事実だ。16-18世紀ならいざ知らず、
要するに植民地主義とか拡張主義というのは金銭的に儲からないようにできているし、
現地の人の恨みを買う。それなのに未だにロシアは北方領土を返さず、ウクライナ
クリミアで事を起こし、中国ではチベットウイグルで多民族を圧政し、東、南シナ海
覇権を唱えている。自分が生まれて80年余このかた世界の地図は大きく変わったが
人間の醜い欲望は変わらない。人間の持つ悪しきDNAなのか。