隠居の独り言(1299)

先ごろ、さいたま市に住む現在111歳の百井盛さんが男性の世界最長寿になったと
報道された。大阪の女性116歳の大川ミサヲさんも最長寿ということで実に目出度い。
いったい人は何歳まで生きられるのか?男115歳女122歳との推定データとかだが
それは無病息災が条件だから普通ありえない。100歳以上の「百寿者」の数は毎年
敬老の日が近づくと厚労省から発表されるが最初の記録の1963年153名だったが
その数は一昨年5万人超えたという。10年毎3〜4倍になる勢いで増え続けている。
長寿は目出度いが、問題は健康寿命の伸びも一緒でなければけっして目出度くない。
人の一生は貰うことから始まる。オッパイを貰いダッコして貰い、やがて学校に行けば
ランドセルを買って貰い学費を出して貰う。20年ほどが経ち、やがて子供は成人して
恋人を見つけ結婚して妻子を養うようになれば今度は貰う立場から与える立場になる。
そして数十年が経ち、その夫婦は老いて与える立場から与えられる立場になっていく。
仏教の言葉に転生輪廻(てんしょうりんね)があるが人間の生きるサイクルはこうして
数十万年と続いてきた。晩年に思うのは今まで忘れがちな父母を偲ぶことが多くなる。
吉田松陰の辞世の句は「親思ふ心にまさる親心 今日のおとづれ何と聞くらん」だが
処刑という死を直前にして親心を思うのは松陰ならずも人としての最後の感情と思う。
人間は時間の過程の中で生きている。これで完成でもなければ失敗ということもない。
山本有三路傍の石」で、主人公・愛川吾一が危ない悪戯した後に先生から諭される。
「いいかい、愛川。愛川吾一という者は、この広い世界にたったひとりしかいないのだ。
愛川吾一ってものがひとりしかいないように、一生ってものは一度しかないのだぜ・・」
若き日の感動がときどき蘇る。感動の積み重ねが悪くなりがちな自分を支えてくれた。
自らの生き方を持ち、他人の生き方を評価せず、自分はただ限りなく自分でありたい。
生きた幸せは心温かい家族、友人、知人たちと、時の過程を経ることができたからだ。
人はみな不完全燃焼で一生を終える。そして終えるまで健康に留意して過ぎし日々を
静かに振り返ることのできる優雅さを持つ長寿でありたい。