隠居の独り言(1367)

今年の大河ドラマ「花燃ゆ」は視聴率が今イチらしい。自分は普段の生活でテレビは
あまり見ないが唯一の楽しみ、日曜夜の大河ドラマの評判が芳しくないのは気になる。
しかし今年の大河は見ていても背景も筋書きも何か一本通るものが欠ける気がする。
ドラマが日本史上、視聴者が最も興味を注ぐ幕末→明治にかけての時代背景なのに
もっと人気が出て良さそうなのだが残念だ。幕末という日本が大きく転換する時期を
一年のドラマで語るのは難しいが、だからこそ解り易く面白いドラマにして欲しかった。
そもそも主人公が吉田松陰(伊勢谷祐介)の妹・杉文(井上真央)というのも、的外れで
ヒーローはやはり歴史的有名人でないと視聴者には分かりにくいし、なかには歴史の
教材として大河を見ている学生もいる。公共放送NHKの役割をしっかり持って欲しい。
幕末というのはこれまでの閉鎖された日本が外国の文明と脅威を知り狼狽えた時だ。
平成の感覚では考えられないが当時の志士たちは武家体制という藩主のしがらみと
黒船来航で国の危機を憂うため、身を賭して信念を通す勢いが自らを犠牲にしてまで
日本の鎖国社会を打破しようと訴えたことだ。下田で黒船密航に失敗し囚われの身と
なった吉田寅次郎(後の松陰)の処分を巡り伊之助(大沢たかお)は救出に奔走する。
しかし寅次郎は下田で逃げようと思えばできるのに、わざわざ自首する彼の考え方が
理解できないが、攘夷の志溢れる当時の世相に、死を覚悟して日本の開国に訴える
寅次郎の純粋さに心打たれる。幕末という日本の革命を一つの事業として考えても、
成し遂げる人と実った果実を食べられた人に分けられる。吉田松陰始め「成す人」の
殆どが途中で斃れてしまうのも革命とは危険な大事業だ。劇中で寅次郎が江戸から
長州に移され野山獄に繋がれるが当時の牢獄の模様や身分制度の格差も描かれて
勉強させられる。寅次郎の獄中での牢人とのやりとりの出来事も面白いが、その中で
女囚の高須久子井川遥)の罪が「不義」という当時あった刑法の説明も欲しかったが
ちなみに日本も戦前まで「姦通罪」というのがあって不義密通は御法度の時代だった。
明治になって詩人・北原白秋も人妻との恋に落ちて下獄もしている。話が横にそれた。
幕末における長州藩の役割は日本を変える大きなうねりの中心だったが「花燃ゆ」は
その点でも物足りない。ドラマの時間の制約があるにせよ、中身の濃い幕末の背景を
きちんと説明があって物語がある。不評判の原因も、その辺りにあるのかも知れない。
大河ドラマは歴史が優先しなければならないことは言うまでもない。