隠居の独り言(1392)

どんな人でも、好きなものと嫌いなものがあるが、その好きの方から先に出てくる人と
嫌いな方が先に出てくる人に分けられる。人間の性格と言ってしまえばそれまでだが、
一般的に好きが先に出てくる人はお人好しで、嫌いが先に出てくる人はシビアな人だ。
二人が同じ旅行に行ったとする。後で旅行した感想を聞いてみると、好きが先の人は
「景色が良かったし空気も美味しかったわ」と答える。嫌いが先の人は「料理が不味く
店員の態度が横柄だわ」と答える。同じ旅して同じ時間を過ごしても物事の捉え方が
まるで異なるのは性格の違いとしても、嫌いが先の人は若い時から批判能力に優れ
人生の路線も浮かれず生一本で通せたから羨ましかったが、優柔不断的な自分には
有限の人生が押し迫ってくると、好きが先のタイプのAboutが楽な気がしてならない。
人の体は無数の部品で構成されている。その部品の一つも故障するのを病気という。
「健康第一」という言葉は健康なときにはわからない。それは健康が当たり前だからだ。
歳を取って病気知らずという人もいるが老いてはありえないし嘘にきまっている。でも
多少の病気があっても朝きちんと起床し、きちんと一日を過ごせれば健康体といえる。
「健康自慢」という言葉の半面「病気自慢」という言葉もある。同窓会や旧友に会うと
病気の話ししか話題がない。考えてみれば彼らと付き合っていた時なんて人生の内、
ほんのいっとき、しかも世間に無知の年齢だったから懐かしい昔の話もすぐに尽きる。
それに比べ「病気自慢」は尽きることがない。同窓会の中で酒が入り、酔いが深まると
旧友は「俺は10年前に胃癌で14針縫った」と、わざわざTシャツめくって腹を見せる。
自分も負けず「前立腺癌で12針縫った」とパンツをずり下ろす。女性も揃って大笑い。
昔のプリマドンナは「あの時、なぜ誘ってくれなかったの」「美しすぎて勇気が無かった」
「言う気が無かったのね」洒落にならない老人の戯言はキリがない。「今度生まれたら
結婚しようね」「来世の予約は一杯で・」「あの世も女たらしね」老いて恥多しの団欒で、
同窓会の集いは楽しい。みんな時を忘れて過ごす。別れ際に「来年また会おうね」と
挨拶を交わしたが先日、幹事さんから「わずか三人になったから同窓会は解散する」
との通知を受けた。治療不能な患者に医師の「余命何ヶ月」との通知に似たシビアな
思いがした。明日の夢が遠のいていく。こんな時こそ好きの方から出るタイプでいたい。
聖路加病院の医師、日野原重明さんは103歳の現役で、作家の瀬戸内寂聴さんは
92歳で胆癌を乗り越え執筆を続けている。遥か及ばずとも偉大な先輩を見習いたい。
命というのは運命的なところが多いが、普段の節制と心構えが何よりの処方箋だろう。