隠居の独り言(1457)

愈々2015年の暮れ。忘年会にも誘われるが残念ながら自分は下戸で酒が全く呑めない。
一滴も呑めないというのでなく口に含めば美味しいと感じても顔がすぐ赤く朦朧となり
肝臓が受け付けてくれない。これでは一丁前の大人としての肩身が狭いこと甚だしい。
先祖代々、祖父も両親も下戸だったので生まれつきの体質はご先祖を恨むしかない。
「酒なくて何で己が肴かな」という。「酒は百薬の長」という。分かっているが仕方ない。
ところで年末の代表的な落語に「芝浜」の名作がある。これも酒呑みをモチーフとした
落語で年末気分をバックに夫婦の愛情をこまやかに表現された落語の名作の一つだ。
今更ストーリーの必要はないけれど、主人公は天秤を担いで商いをする魚屋「魚熊」。
彼はいつも酒に溺れ仕事をサボり、大事な得意先を次々と失っていく。見かねた妻は
夫に嘆願して芝の魚市場に仕入れに行ってもらうが、夫は時間を間違え早く出かけて
芝の浜でタバコを吸い顔を洗う。その時、波打ち際で50両の大金の入った革財布を
拾って興奮して家に飛んで帰り妻に大金を見せすっかり有頂天。妻は拾い物だから
届けなければと言うのも聞かず前の晩の酒の呑み残しを全部呑んで寝込んでしまう。
しばらくして妻は何事もなかったように夫を揺り起こし「河岸へ仕入れに行って」と頼む。
夫は何をバカなことを言っているんだと聞き流し朝湯に行き親しい友達を連れ帰って
酒や仕出し料理でドンチャン騒ぎをする。もちろん夫も財布のことは内緒にして・・
酔いつぶれ寝込んだ夫はまたしても妻に起こされる。妻はこの酒と料理の支払いは
どうするつもりと夫に詰め寄る。夫は怒り、お前は大金を知っているのにとぼけるな!
最初はそんな気配だったが妻にその日の夫の行動をきちんと説明して、あげくの果て
「お前さん、夢でも見たかね」「夢だよ、お前さん、酒ばかり呑んでいるからそうなるの、
ねぇ、お前さん、頭がおかしくなっちゃったんだよ」と言われ、夫は呆然となってしまう。
そいじゃなにかい?俺が財布を拾ったのは夢の中で呑んだのは本当のことなのかぁ
割に合わない夢見たなぁ」その日以来、夫は心入れ替えて酒を絶ち商売に打ち込む。
そして三年後の大晦日、夫の心がすっかり入れ替わった姿を見た妻は部屋の奥から
財布を取り出し告白する。あれを夢と言ったのは嘘。お前さんは本当に拾ったんだよ。
そして涙ながらに妻は夫に詫びる。夫はしみじみと、よくだましてくれた、ありがとうと
感謝する。告白した妻はホットして「お前さんに話してから一杯呑んで貰おうと思って
酒を買ってあるんだよ」夫は「もう酒と生涯付き合わねぇと思ったが、また宜しくなぁ・」
折しも除夜の鐘が鳴り始まった。「ありがてぇ、ありがてぇ」と夫は湯呑みを口にしたが
「よそう」と言う。妻は「どうして」と驚く。夫は「また夢になるといけねぇや」これがオチ。
年末の落語は「芝浜」に限るが、みんな今年の夢の垢を落して新しい年を迎えたい。
みなさま、良いお年を・・・