隠居の独り言 71

近々煙草税が上がる。煙草は体に悪いと知りながら止められない。最近の夏の夜は自然のホタルより人間のホタル族のほうが圧倒的に多いという。「煙草は優しい麻薬である」脚本家で作家の久世光彦が上手いことをいった。健康に良くないと知って吸うのは意思弱いのか、それともよほど好きなのか。煙草を吸ったからといって必ずガンになるとはかぎらない。あくまで確率のことで、しかし罹患が高いのは事実らしい。でも生きてみなければ分からない。かつて沖縄の男性の最高年齢者の泉千代は煙草をやめずに110歳を天寿し、中国の毛沢東もニコチンの強い煙草を一日100本も吸い82歳まで生きたし、訒小平も一生止められず92歳まで存命したが、三人ともに肺ガンが命取りではなかった。ボクも19-49歳までの喫煙履歴が30年はあるけれど、くつろいだ時の、あの一服の旨さは今も忘れられない。今でこそ悪者扱いだが、かつて喫煙は文化のひとつ、会社の応接室のテーブル上に置かれた煙草入れにはラッキーストライクを用意し来客に勧め商談が弾んだ。映画、テレビ、芝居、落語など小道具としてのタバコは不可欠なものだったしキセルも流行った時代があって街の物売りにキセル掃除の「ラオ屋」が商売していた。若いときに煙草を咥えるサマに憧れ最初は咳き込み,徐々に慣れたが喫煙したからってモテたわけでもなく小遣いばかり減って煙草中毒は止めるに止められず、幼い娘がボクに「タバコデオナカガマックロニナルヨ」男とは女房の言葉には耳を貸さないが娘には弱い。その一言で愛煙家が嫌煙家に変身するには時間が掛かったが、あの時、止めてよかったとつくづく思う。唐の詩人杜甫は人生七十年古来稀なりと言ったが、当節の日本は75歳以上の年寄りが1500万人、100歳以上が67000人と鶴亀の時代になっている。長生きの統計もそうだがそれぞれ健康については自己責任であり喫煙率の減少も一つの原因らしい。「長生きの最大の秘訣は、正直には生きないこと、正直とウソの真中を上手く渡ること」106歳全うの国文学者の物集高量(もずめたかかず)は語った。