水上勉

「とび立ちかけて白い腹を夕空に輝かせている一羽もいるかと思えば松の幹の
 瘤の一部のように動かずにすくんでいる一羽もいた」これは小説「鴈の寺」の
一節だがこれは実態描写でなく衣笠の禅寺狐峰庵の襖に描かれた墨一色の鴈の群れ。
しかし生きるかのような迫真力があったそうな。遺作「一休」にしても老僧と盲目の
女旅芸人との愛の淫情に老残を惜しむかのように悲しく書かれた物語はおそらくは
ご自分と重ねていらっしゃったのではないだろうか。水上さんは幼い頃より大変な苦労され
たようだがその種が後半生に花を咲かせて人生の収支バランスは大黒字に持って
いかれた気がします。  ご冥福を祈ります。