小僧⑧

私の務めた店は春には主にセーラーハットを作り秋からは学生帽を生産していた。
当時の学生は殆んどが帽子を被り一年中仕事の忙しさは絶えることが無かった。
学生帽のカタチは大きく分けて四種類で、一高型、三高型、慶応型、早稲田型。
主に小学生は三高型、中学生は慶応型、高校生は一高型を被り(学校によっては
違っていた)大学はそれぞれ学校の持つカタチがあった。売れる時期が決まって
いるので注文の数をこなす為、入学時期までは多忙を極め毎夜遅くまで働いた。
一二三の月は休日なく、その分春になっての一泊二日の社員旅行がとても楽しみだった。
しかし世間の景気は上向き始め、朝鮮戦争特需もあって、大きな企業は大量に従業員を
集め、地方からの集団就職も始まり、待遇のいい企業へと人々は流れ、長い間続いてきた
小僧から始まる徒弟制度もしだいに崩れて、労使の関係も徐々に変化する時代になっていく。