小僧⑪

日記や自分史を書いてて、ときどき「本当の自分」を書けないもどかしさがある。
誰しも表や裏があり、自分が仕出かした悪行愚行、言えない恥ずかしい事や
個人への悪口などだが、あのときの約一年間は、思えば悪夢を見ているような
奈落の世界にいた。仲間たちは個人的にはいい人なのだが、お金になると思うと
徒党を組んで人間が変わったように男も女も容赦なく最悪最低の悪業を重ねていた。
強奪、脅迫、借金の取立て、いつも見張り役だが恐ろしさが麻痺した自分が怖かった。
仲間たちはヒロポン覚せい剤の一種)を一本の注射器で廻し打ちなどをしていたが
誘いはされてもそれだけは断った。中毒症状の悲惨さを見てのことだったが良かった。
先輩にはイイ人が居て、その人が泊まるときは私は遠慮して別の仲間にお願いをしていた。
最初にお断りしたが、書けないことは山ほどあって、あの時は私にとって何だったのだろう。
人は誰しも自分だけが持っている思い出があり、それを全て大切に持ち続ける事は不可能だが
本能的に嫌な部分や醜い事は忘れて、迷惑を掛けた人への配慮も遠のき“時”は残酷と思う。
あの経験が私の其の後の人生に、どのように反映されたか未だに不明だが、表があれば必ず
裏があり、幸せには不幸が付き「禍福あざなえる縄の如し」が分かっただけでも良しとせねば。
図らずも親分が捕まって仲間が散りじりになり、私の父も心配して上京してくれて元の店へ
お詫びして戻ったが、若かったから精神的にも立ち直れたのかも知れない。19才の春だった。