小僧(21)

人の生涯は遺伝子三分、環境三分、努力三分、一分の運で決まると云う。
私の遺伝子は父の家が姫路藩の士族で母の実家は大阪の商家の娘だった。
祖父母は士族の“家”に縛られた古風な頑固さで昭和の代まで跡取りの
結婚相手は士族でなければならず、ために父は勘当(親子の縁を切る)され
私は私生児として母方に育てられたが、その実家も大阪御堂筋の建設の立ち退きで
廃業の憂き目に遭い祖父も追うように逝った。母はタカラジェンヌの華やかな時代も
あったが“出会い”が人生を大きく変えて、お坊ちゃん、おいとはん育ちの二人には
哀れなほどに生活に苦しんだ。やがて父は出征し母は夜まで働いたが戦争も激しく
福島の叔父を頼って一家は祖母を連れて着の身着のまま白河へ逃げたが生活苦は
以前に増して厳しく私と二つ違いの妹は学校は殆んど行けず働けるものは全てした。
母は後半「お前と○子には悪い事した」と口癖のように語ったが何故か怨みは無かった。
父は戦後肺を病み母は54才のときにスモンに罹り40年近くも寝たきりになって天寿を全うした。
一分の運さえ無かったような父母の後半の人生は思うごと可哀想な気がしてならない。
私は一つだけ親孝行をした。老いた父母にマンションを買って住んでもらった。
人間って何だろう、生きるってなんだろう。悩む時父母の人生を思う。