流し雛

♪月は朧に東山 霞む夜ごとのかがり火に・・
お馴染み「祇園小唄」の歌いだしだが、春は大気中に水蒸気が多く
昼間は霞に夜間は朧に、記憶や感覚までぼんやりと気持ちの眠気を誘う。
雛祭りの翌日は人形やお供え物を川や海へ流す「流し雛」の習慣の地方も
あるが、雛のはじめは魔よけの行事として人形が身代わりに流されたらしい。
泉鏡花の「日本橋」や芥川龍之介の「雛」など読めば、哀しい物語りの中にも
人形の持つある種の優しさや淋しさが漂わせて情感を持って見ることが出来る。
鴨川に映える東山の稜線の今夜の月はおぼろにかすんでいるのだろうか。
「くちずけの動かぬ男女おぼろ月」  池内友次郎