小僧一人旅(15)

年が明けて昭和38年、来年の東京オリンピックの開催の前景気で日本は大きく変わって
特に東京の西南部など競技施設やそれに伴って街々は大いに変貌し、一般、高速道路や
新幹線など次々と建設されて「岩戸景気」とか「いざなみ景気」などと称されて当時の
景気の上昇は続く。世の中が進むにつれて製造方法や設備も進化していく。専門用語は
省くが裁断は手包丁から糸鋸状の裁断機に、縫製はミシンの改良で便利なものが出始め、
仕上げ機は銅型から鋳物に変わり、生産性が上がって売り上げも年毎に増えて、順調に
商売も軌道に乗ってきた。お得意先も替わってきて量産された荷物を運ぶため、初めて
ダイハツの軽の幌付き貨物自動車を買った。そしてボディーに商店の名前と電話番号の
書かれた横看板を見た、あの感慨は忘れられない。「石の上にも三年」という諺がある。
冷たい石でも三年も座り続ければ暖かくなるし、辛抱して頑張れば、必ず報われる、
という意味だろうが、年数を経ると確かに根付いてきた実感があった。そして両親にも
孝行を思いつき、オリンピックの開会式のチケットが公募されると聞いて、仕事関係、知人、
友人等にお願いし、名前を借りて50通ほど応募したが、残念にも全て外れて落胆した。
孝行とは難しい。両親に連絡したら「そんなことでお金を使うたらあかん・・」と逆に
説法されてしまった。「親思う心にまさる親心」とはこのようなことかと小僧は知る。
今年の新潟は地震あとの大雪に苦労したが、昭和38年にも日本海側は豪雪で難儀した