小僧一人旅(18)

出会いは人生を変える。仕事上の出会い、友との出会い、そして伴侶との出会いは
幸せにも不幸にも一生の運を決めてしまう。人間関係は理屈などを越えた「気が合う、
合わない」という感覚的なものがあるが、それは人の意思とは、かけ離れた不思議な
「相性と縁」によるのが多い。昭和39年は小僧にとって仕事上で大きな進展があった。
独立当時からのお得意さんに日暮里のT商店(のちのEDWIN)があったが、そこの
女将さんから,帽子を一個見せられ「このような物が出来ないかね?」とのお話しに
製品を見たらMade in USAの刺繍入りのデニムの、いわゆるアポロキャップだが、
当時の国産では帽子に刺繍を入れる発想は無かった。今思えば簡単なようでも最初は
試行錯誤で早速、刺繍屋を探し職人さんとも話し合ってサンプルをT商店に提出した。
ともかく帽子の注文は爆発的だった。それからの数年間はただ無我夢中に走り続けて、
大いに稼がせてもらったが、このあたりが店の基盤を作り、万全のものにしたと云える。
可愛がってくれたT商店のお女将さんを思い出すごと、小僧を大きくしてくれた感謝の
思いは忘れられない。刺繍屋も一度に何頭かのミシンが連動されて、同時に動く機械が
発明されて大きな転換期を迎え、帽子の刺繍と相性良くよく互いに商いを上昇させた。
仕事上の良き出会いは、商いの発展には不可欠だが、いい運の巡り会わせに感謝した。