小僧一人旅(19)

東京オリンピックは「戦後」に一つの区切りをつけた大きなイベントとだったと云える。
敗戦から見事に立ち直った日本の底力を世界に示すことの出来たその役割は素晴らしい。
仕事にも余裕が出てきて、小僧はこのとき初めてTVを買って観戦し素直に熱中した。
体操、水泳、東洋の魔女、三宅、円谷、アベベ、ヘーシンク等々思い出しても汗する。
あのころ日本も節目だったのかも知れない。進駐軍の親分だったマッカーサー元帥や、
好きだった浪曲広沢虎造が亡くなり、新幹線、首都高速、羽田へのモノレールが生れた。
そのような折、職人さんの遠縁の人が、事情で家を処分したいとの話で、小僧に買って
もらえないか、と持ちかけられた。場所は江戸川区松島、総武線新小岩駅から徒歩8分、
20坪(私道含む)の土地に築後12年の二階家で、価格180万円で売りたいとの事で、
見に行ったが、家は西南向きで、近くの工場の騒音が気になったが、原料や在庫が増えて
置き場所に困っていたし、近々に所帯でも持てればと考えていたので、貯金通帳と相談
して150万円ではと交渉してみたら、あっさりOKが出た。高いか安いかは分からない。
家は価格よりも使う人の利用価値による。不動産の売買の経験もなく、登記所で方法を
聞き、職人さんに立会人になってもらい司法書士の事務所で手続きを終え、何日かして
権利書を貰ったときの感動に全身が震えた。人が見ればささいな事も、自らが成し遂げた
満足感は宝物のように思える。そして虎の子の大半が消えた。