小僧一人旅(21)

史記に依ると昔の考えは日本の四季は四人の女神が支配されているものだと信じられた。
春は佐保姫、夏は筒姫、秋は竜田姫、冬はうつ田姫。その秋の竜田姫は「織物の姫」で
錦織の色彩に山野を染めるそうだが、その竜田姫が「縁の姫」として小僧に近づいた。
最初の見合いから、それらしい「話題」もちらほらあったが、何故か途中で立ち消えて、
宙に浮いた。伴侶を選ぶには一生を賭けた冒険のようなもので、相手の親にしてみれば
どこの馬の骨か分からない小僧の今の状態に大事な娘を預けることが出来ないのは当然だ。
東京オリンピックも終わった秋の紅葉の頃に、仕入先の某生地屋さんから、「お見合い」の
話があって下町商家の娘さんとの事。小僧も愈々独身の納め時と、お願いすることにした。
見合相手は小僧より六才下の本所深川の娘。時は11月中旬の日曜日。場所は上野広小路
風月堂」。小僧は約束の一時間前に店を出て、浅草橋駅から御徒町駅へ乗ることにして
歩いていたら、道の途中に見知らぬお婆さんが倒れていた。小僧は「どうしましたか?」と
訊ねても「うぅぅー・・」と唸るだけで返事がない。これは大変と近くの交番にお婆さんを
背負って連れて行き、あとはお巡りさんに任せたが、事情聴取などがあって約束の時間に
大幅に遅れて慌てたが、相手の方々は諦めて帰ろうとしていた矢先に間に合って到着した。
最初から平謝りの出会いに、この話も、またダメかと思った。