小僧一人旅(22)

人間万事塞翁が馬で、福も禍も交代でやって来ると云われているが、商いの波風も
こうのとり」のもたらす縁も、その時々の神様のご機嫌次第で、先が読めない。
とくに男と女の間柄は易しそうで、なかなか難しい。小僧もこれまでの青春時代で
心底好きになった女性は初恋の人と、雪国生まれの人の二人に燃えたが、どちらも
失恋の憂き目にあった。失恋をすれば人は学び、大きくなると言う。そうだろうか。
「人間は戦争と貧乏と失恋を知らなければ人生の味は半分しか分からない」 米国の
作家オー・ヘンリーの言葉だが、小僧は幸か不幸か全てを体験したけれど、人生の味を
知るには噛む年数が足りない。夫婦の長い旅を重ねて始めて分かる、その味を、甘いか
辛いか知る頃は、三途の川の渡し賃を用意せねばならないトシになっているだろう。
小僧は見合いの相手と二度ほどデイトした。大船の湘南フラワーパークではリンドウや
フジバカマが咲き、紅葉が見ごろを迎えていたし、日比谷映画で「シェルブールの雨傘
を観たが、戦争などの運命に翻弄されていく男と女が、美しい音楽のなかで演じていたが
ラストシーンで雪の中で、昔の恋人の幸せを覗き見て嘆いた、女心の葛藤が印象的だった。
会っている時に、お互いにこれまでの経歴など、話し合ったが、それより今後どのように
仕事を発展させ、家庭を作って行くかが二人の課題で、小僧は仕事の帳面や預金の全てと、
売掛けや買掛け、在庫、動産など貸借対照表にして、相手に説明し、納得してもらった。
あとは相手の気持ち次第、小僧は相も変わらず仕事に追われながら、返事を待っていた。