ホーム慰問と音楽療法(2)

私の祖母はとても音楽が好きだった。明治の初期に生まれた祖母は、当時は学校とて
そんなに通った事がないのに何故かクラシックの音楽もよく知っていた。「野ばら」や
シューベルトの子守唄」など孫たちに歌ってくれて今はとても懐かしい思い出だ。
先日、慰問した某ホームで一人のお年寄りがノート一冊に昔の歌を自筆でビッシリと
書き込み、それを毎日歌って楽しんでいられるとかで、こちらが勉強させられた。
思うに昔に育った世代ほど音楽を生活の中に溶け込んだ暮らしがあったのだろうか。
ホーム慰問を始めて、かれこれ10年になるが、始めたころと今ではホーム入居者の
年齢も変化して、歌の種類も明治大正の歌から、昭和の戦前戦後の歌に変わってきた。
それでも今のお年寄りたちは地方出身が多く昔の自然を題材にした尋常小学唱歌など
聴いて喜んでくださるが、これからの時代の変遷のなかで、どのようになるのだろう。
今の日本列島が都市化の傾向で、どの地方も景色が同じようで田舎の風情が消えていく。
例えば「故郷」“兎追いしかの山”も都会育ちのお年寄りたちにはイメージも沸かないし
「春の小川」も「赤とんぼ」も、その時代を背景に作られてきただけに時の経過と共に
忘れられてしまうのか、とても淋しい気がする。今のお年寄りたちの音楽が好きなのは
昔はラジオもテレビもなく自然発生的に歌を聴き、唄った経験が豊かで、頭の奥底に
インプットされて、生きてきた哀楽の感情とともにストックされているからだと思う。
これも聖路加の日野原さんの説だが、医者の仕事には三つの要素が必要なのだそうで
「医学の知識」「手術の技能」「患者さんへのタッチ」だが音楽療法は、まさにタッチで
医者が手当てすると同様なパフォーマンスが必要な所は、音楽とサイエンスは似ている。
とかく理屈抜きで、奏でるほうも聴くほうもお互い楽しめて、それが療法にもなるのは
音楽を奏でるものにとって冥利に尽きる。