隠居の独り言(265)

「働けど働けど なお我が暮らし 楽にならざり じっと手を見る」 啄木 
明治の昔に石川啄木は懸命に働いても、いっこうに楽にならない生活の苦しみを
短歌で表したが、あれから100年の時が過ぎても構造的な格差社会は変わらない。
ワーキングプアという言葉が最近よく聞かれるが懸命に働いても一般の平均的な
賃金を得る事が出来ず平均所得の半分以下の、いわゆる貧困層が平成18年度で
16%にも達している。先進国中ではアメリカの20%が最大だが、それでも日本は
第5位の不名誉な記録の数字になっている。大企業と中小企業、産業別の格差、
都市と地方、年齢別、男女間、正非社員等の二極化は広がる一方で、そのなかで
世間の景気は史上最高と言ってもその大半は輸出に依存する産業に集中し勝ち組と
負け組みに分かれ出遅れた企業は長い間の不況で資金も底をつき昨年の倒産件数は
中小零細企業や個人が史上最悪の数字で推移している。フリーター的な派遣社員
250万人を超え雇う企業も人件費が正社員に比べて安いメリットを追求している。
格差社会は治安の悪化にも繋がり犯罪件数も年を追う毎に増え続けているという。
不況に伴う万引きなどの経済的な軽犯罪は膨大な件数でその大半は生活苦からの
気の毒な一般庶民が多い。哀れなのは老人の犯罪で今更年齢的にも働くに働けず、
若い時の働き方によっては年金の未払いなどで老後の保証もままならず、収入も
微々たるもので預金も底をついて日々の生活に事欠けばつい盗みの手が出てしまう。
年金の格差も大きな問題で共済、厚生、国民の三つの差は天と地程の大きなもので、
このような格差が出てしまうのかシステム以上に政治の怠慢としか言いようがない。
同じ日本人として若い時から同じように働き汗した者同士がどうしてこうなるのか、
長年に日本の成長を支えてきた技術者や職人も一個いくらの手間賃で仕事が不況で
仕事が減れば収入はガタ減りで、しかも老後での基礎年金の数万円だけでは普通の
生活はおろか病気になっても医者にかかれない事実を政治家は承知なのだろうか。
かつての日本全体が中流意識を持っていた時代と違うのは、産業のグローバル化
技術やもの作りは中国その他の安い労働力のある国へ流れて、いわゆる二次産業は
空洞化して日本のお家芸が失われたからで目先の利益に走った商社や大企業の罪は
大きいと思う。安倍晋三内閣の提唱している格差社会の是正はどこまでが本物か。
先輩たちが苦労して培った「技術の日本」が泣いている。