隠居の独り言(457)

一年を楽しませてくれたNHK大河ドラマ風林火山」は昨日の「決戦川中島」で
幕を降ろした。一年間の主役を務めた山本勘助内野聖陽)は自分が献策した戦法が
失敗し武田軍が苦戦に陥った責任を取るため討ち死にすべく味方の制止を振り切って
「行くことは流れのごとし」と言い残して雲霞の上杉軍の真っ只中に馬を走らせた。
享年69歳とも伝えられる。片目と片足が不自由で「醜男」と言い伝えられる勘助が
信玄に仕えて18年、主君から愛され甲斐の知恵袋と謳われるまでに出世した彼には
自らの責任で敵陣に身を投じて壮烈な戦死を遂げたのも本望であったに違いない。
戦闘の最中に八幡原の武田本陣を見極めた上杉謙信Gackt:ガクト)は、陣中を
十数騎で突破し武田信玄市川亀治郎)の側面に迫り彼に、二の太刀、三の太刀に
斬りつけた。これが世に言う信玄・謙信の「三太刀、七太刀、一騎打ち」の物語だ。
浮き足立った武田軍も妻女山からの別働隊12000が到着して加勢に加わり戦況は
一変し、上杉軍はたまらず川中島北方方面へ敗走して大激戦も終わりを告げる。
戦い済んで日が暮れて、川中島には武田兵の死骸が4600人余り、上杉兵の死骸が
3400人余り累々と死体で河原は埋まり、千曲川は赤い血の流れに染まったという。
命をとりとめたものの深手を負った兵は武田方は7500余り上杉方は9400余りと
いわれ、戦った兵士の殆どが戦死、或いは傷を負った戦国史上にも稀に見る激戦は
武田方にも上杉方にも甚大な消耗の割に得たものは何も無かった。謙信が守る約束の
信濃の諸侯の合流も無かったし信玄の領土拡大も無かった。それなのに両者は何故、
死を賭けた激しい戦いをしたのか、意地と意地とのぶつかり合いは人間の飽くなき
欲望でとても悲しいがそれぞれの何万の武者達の心に感慨を覚える。川中島という
場所は過ぎた日の、先の大戦末期に日本軍の大本営が立て籠もって最後の決戦場に
しようとした所だった事も考え合わせて魔力を持った不思議な場所だと思う。


風林火山」が始まった最初の頃は配役陣がイメージとかけ離れて馴染めなかった。
勘助役の内野聖陽は美丈夫過ぎるし、信玄役の市川亀治郎肖像画とは迫力が違うし、
謙信役のガクトは最もビックリした。由布姫役の柴本幸は儚げな女性とはまるで違う。
でも時が進むにつれて彼らと筋書きに嵌まっていったのは最高の役柄だったのだろう。
歴史そのものが創作された部分が多いので、ほんとの姿格好は想像の粋を出ないのは
仕方ないが制作・若泉久朗、脚本・大森寿美男が描いた人間像がハマリ役に違いない。
大河ドラマに携わった制作、脚本、演出、音楽、俳優、全てのスタッフのみなさま方、
一年を通じて楽しませてくれて感謝を述べたい。そしてご苦労様でした。