隠居の独り言(518)

幕末から明治にかけて活躍した偉人で西郷隆盛ほどカリスマ的なスケールの大きい
人物はいなかったし、しかも彼ほど分からない業績を残した人も珍しいと思う。
西郷(小澤征悦)の身についた職業的な才能といえば武士にはめずらしく算盤が
達者で下級武士の貧しさから脱却するためには早くから藩の役職を得ようとして
当時の武士階級の商いを軽んじた習慣もあって人の嫌がる算盤を懸命に学んだ。
武士は土地を私有しなかったし、金銭の話しや価格に関する話も禁言とされた。
三民(農工商)の師表たるべき武士は金銭的利益のためにルールを破る道義的な
責任は重いもので、まさに「武士は食わねど高楊枝」や「子孫に美田は残さず」だ。
結果、十代の終わりごろに郡方書記に抜擢され、やがて算数から垣間見る世間や
物事がよく理解出来る事に気がつくようになり、その後の彼の業績に反映された。
島津斉彬高橋英樹)の側近として江戸に同行を求められたのも理路整然とした
意見書が目に止まったからで彼の持つ尺度と器量を斉彬は見抜いていたのだろう。
西郷の出発点は貧しい家計を助けるために算盤を習ったのが大きな転機だった。
NHK大河ドラマ篤姫」では西郷が庭方役に抜てきされ篤姫宮崎あおい)の
13代将軍家定(堺雅人)に嫁する嫁入り道具一式の選定の大役を任される。
一方の薩摩に残る肝付尚五郎(瑛太)は西郷の活躍を聞き城勤めもままならず焦り
大久保正助原田泰造)もようやく公務に復帰できたが父の遠島処分が解けない。
ドラマは、斉彬の息子で近衛家との結納を済ませたばかりの虎寿丸が早世したり
さらに斉彬自身も重い病で寝込んでしまうなどの重苦しい雰囲気が漂う。薩摩の
動向が後の維新に及ぼす影響が如何に大きかったか、今は誰も気付いていない。