隠居の独り言(771)

大河ドラマ「竜馬伝」のストーリーや、竜馬の生涯を追っているだけでなく
その背景にある幕末の時代や土佐人としての竜馬を別の視点から見てみたい。
土佐という地は地図で見れば分かるように四国の南端の平野部分で北部には
人を寄せ付けない険しい四国山脈があり南には黒潮の流れる海に面している。
日本列島の中で唯一、孤立したような特殊な地域的な環境は生物の世界でも
鯉や鯰や泥鰌などの魚類が、江戸時代までは生息していなかった記録もあり
今は特別記念物になっている優美な鶏の一種「東天紅」も土佐にしかいない。
その辺境性で古代の日本では政治犯流刑地として利用された僻地であった。
住民も昔は他国との往来が殆ど無く独自の文化、言語、思想が生まれたのは
必然的で土佐が持つ凝縮された群落の考え方が生まれていた。戦国期になり
土佐の長宗我部が四国山脈を乗り越えて四国一帯を征服したとき他の住民は
異様な鬼のような軍勢に恐れをなしたという。時代を経て幕末の動乱期にも
同じ倒幕に動いた薩長の組織的な行動と違って一匹狼的な働きをした土佐人の
凶刃に倒れた人数の多かったのも地勢的な要素の特有の性格があったのだろう。
その土佐人も時代の変化とともに他国との行き来が増えて同化されていくが、
何といっても関が原合戦という遠い他国で起きた争いに巻き込まれた土着の
土佐人にとっては最大の被害者となったのは哀れといえる。戦いの結果といえ
突然現れた尾張弁の山内侍が、この地を支配し強圧政治を行なったのだから
長い300年を経ても人心相容れず、互いに水と油の間柄だったのは仕方ない。
物語は江戸の剣術修行を許された竜馬(福山雅治)は、乙女(寺島しのぶ)や
加尾(広末涼子)の見送るなか、かつて江戸行きの経験がある溝渕広乃丞
ピエール瀧)と土佐を出立する。城下を出たときに一行の前に表れたのは
岩崎弥太郎香川照之)だが彼の江戸行きの許しが出ていても路銭が無い。
後の三菱財閥を築いた創立者・弥太郎の原点を見た思いに胸が迫る。