隠居の独り言(885)

歴史は繰り返されるというが一世紀前の極東アジアの混乱の情勢と現在進行中の
極東アジアを取り巻く環境が極めて似ている気がしてならない。ただ覇権国家
ロシアは相変わらずだが日本に替わって中国が急成長し周辺諸国に勢力を伸ばす
様子と緊張感は同じでも核武装を含む軍事力の恐怖は当時と比べ物にならない。
明治30年頃の日本は日清戦争には勝利しても大国ロシアの脅威に対抗するのは
小国日本ではとても無理で欧米のどこかに助けてもらわなければ潰されてしまう。
当時のイギリスは世界に冠たる超一流国家だが何かにつけロシアと利害が対立し
極東は清に対しての権益問題で、中近東や中東のシルク道路でも領土をめぐって
対立を繰り返していたが、イギリスは南アフリカボーア戦争のため極東を守る
余力が無かったのでロシアと対決する日本との同盟は歴史の流れというものだろう。
それより日英同盟締結は日本にとっての大きなメリットは想定以上のものであった。
膨大な戦費の一部を外債としてイギリスは相当額を負担してくれたし最新鋭艦の
造船を優先的に行ってロシアを牽制した。日本海海戦のとき遠いバルト海から
曳航されてきたバルチック艦隊の情報や妨害行為でどれほど勝利に結びついたか
計り知れない。日英の同盟関係の知恵と感覚は日本を東洋で唯一の独立国にした。
ついでに言えば日英同盟が長く続いていれば先の大戦の悲劇は当然無かったはずだ。
ドラマ「坂の上の雲」は日露開戦が避けられないことを理解していた児玉源太郎
対露戦研究の権威であった陸軍の参謀本部次長が病死すると異例の降格ともいえる
人事を自ら望んで後任についた。そして休職していた乃木希典を陸軍に復帰させる。
後の旅順港を攻めたときの203高地の熾烈な戦いのストーリーがここで始まった。
日本とロシアの彼我の軍事力の差は歴然としていたが日清戦後の遼東半島の欺瞞や
朝鮮半島にまで野望をむき出しにしてきたロシアに我慢の限界であった。日本人の
全てが国難にあたって一致団結した国家意識が戦争を決断させたといえる。かたや
ロシアでは虐げられた人々の革命の火種がくすぶりかけていた。