隠居の独り言(1033)

タバコを止めて30年になる。禁煙のきっかけはある日、夕飯の後でハイライトを
吸っていると小学1年生の娘が「お父さん、タバコでお腹の中が真っ黒になって
死んでしまうよ」その言葉に心が詰まった。女房の言葉には耳を貸さない自分だが
父親というのは娘の言葉に弱いもので身体に悪いと知りつつ禁煙できなかった父を
心配そうに気遣ってくれる娘の心根に遂に禁煙宣言した。周知の通り煙草は簡単に
止められるものでなくニコチン中毒に罹っている身には強力な決心と相当な難行を
クリアしなければ達成できない。薬屋には禁煙ガムとかタバコが嫌いになる薬など
売っているが、あくまで一時的な気休めで禁煙を途中で失敗する人が大部分という。
禁煙は強い意志しかない!自分の禁煙方法はやたら水を飲んだ。ただひたすらに・・
吸いたくなったら水を飲む。ジュースやコーヒーは逆に煙草を吸いたくなるので禁!
水分を多く取ることによって身体に溜まったニコチンが汗や小水で排出されていく。
最初は小水で何回もトイレに通ったが日々を重ねる毎にタバコ依存から逃れられる。
今だから禁煙体験を語れるが一年過ぎてもタバコを吸ってしまった夢を見たものだ。
十代で初めてタバコを吸った日は覚えていない。15歳で上京して小僧になったとき
職場の人はみんなタバコを吸っていた。タバコは合法的には20歳を過ぎてからだが
もう親元を離れていたし先輩が格好良くタバコを口に咥え美味しそうに吸う様を見て
これが大人だなぁと思った。先輩は吸い終わるとタバコを指先で弾き飛ばしたりする。
今ならひんしゅくものだが先輩の仕草が一人前の大人の格好良さだと妙に思い込んだ。
最初は不良気分で吸ってみたが思ったより不味かった。そこで止めときゃいいものを
味じゃない、格好なんだと背伸びして吸っているうちにタバコの味を覚えてしまった。
といって貧乏な小僧にはタバコを買う余裕もなく、たまに先輩から貰ったり捨てられた
吸い殻を集めてキセルで吸って、また一歩大人になった気分になった阿呆の時代だった。
阿呆の時代は30年以上長きに亘ったが止めて良かったと思うにも相当の年数を要した。
今のタバコの箱の表には「健康のため吸い過ぎには注意しましょう」と書かれてあるが
あの頃は「今日も元気だ。タバコがうまい」だった。ラベルの文言の180度の転換も
無責任だが、タバコが原因で病気になってもタバコ会社は助けてくれない。