隠居の独り言(1292)

今更だが自分の会社は東京墨田区内で吹けば飛ぶような帽子製造業を営んでいる。
墨田区東京スカイツリーのお膝元で開業以来二年が過ぎ多くの観光客で賑わうが
経済的効果は東武経営のソラマチだけが潤い地元には殆ど恩恵が無いといっていい。
先だって「平成25年度墨田区産業活力再生基礎調査」というのがあって協力したが
概要版が送られてきて、それを見て驚いた。周知の通り墨田区の以前は東京下町の
職人の多く住む中小工場集積地帯だったが、安い外国製製品流入や、ここ数年来の
不景気で次々と廃業し或いは消えていく。墨田区の事業所の主なところは金属、繊維、
印刷、革製品、パルプ・紙製品、等々で、動向のグラフを見れば昨年度の休業廃業が
金属80社、繊維77社、印刷33社、革39社、機械31社と続き、事業者総数からの比率は
全て10数%で、このままでは5-7年で殆どが消える数字になっている。経営者の年齢が
既に70歳以上が大半を占め、「目下、後継者なし」と答えたのが半数以上というから
墨田区の製造業は危機的状況といえる。自分も年齢と職人不足で数年以内に会社を
閉じる予定なので他社のことは言えないが、この深刻さは墨田区だけの問題でない。
かつて技術立国の日本を支えた職人の腕が消えていく。一口に職人と言ってもその
技術は一朝一夕に完成するものでない。長年の鍛錬が身体に染み込んだものであり
修行のためには人一倍の苦労を余儀なくされる。その苦労が報われない労働環境と
低賃金が嫌われ若者からもそっぽを向かれた。劣悪な環境と低賃金だけではない。
老後の年金にも影響して基礎年金しか貰えない惨めな生活を見れば子供も継がない。
TPP交渉も保護をするのは農業関係で職人には何の恩恵もない。僻みではないが
地方を旅するとわかるが農家の屋敷の何と立派なことか。農家はコメを作りすぎると
政府が待ったをかけ休耕田には税金を注ぎ込み世界の相場の7倍もする高いコメを
市井の庶民が食べさせられている。職人の「声無き声」を政治に反映ない出来事では
農家の息子は外車を乗り回し、職人の後継者には軽自動車にも乗れない不公平さだ。
これでは労働の喜びもなく職人の誇りもない。かつて日本の美意識はどこへ消えたか。
政治家は分かったことを言うが声の高いものには弱い。たとえばメーデーで労働者は
団結して権利を要求するが、何の組織もない職人たちは参加したことがあるだろうか。
何度も言うが戦後の高度成長を支えた一番の功労者は蔭で努力した町の職人だった。
今は景気の良いのは不動産と金融とユニクロ的小売店だがこれが経済といえるのか。
経済とはモノを創造し作って売ることでコツコツ、モノ言わず働く職人にも光を当てたい。
老いた職人は言う「もう俺たちの時代じゃない・・」若い者の将来は知ったことでない。