隠居の独り言(1380)

先週高知を旅した。高知県は四国南部に位置し地図を見ても面積は四国で最も広く
その南側には土佐湾があり、太平洋の黒潮が滔々と流れている。黒潮は沖縄を経て
薩摩・日向・大隅三州を洗い、土佐を洗い、熊野を経て、やがて太平洋の沖へ流れる。
その雄大さを目の当たりにすると地球が展望できるような大パノラマに人を圧倒する。
想像だが日本人のルーツは黒潮に乗って南から日本列島にやってきたのではないか。
弥生時代以前の古代人、つまり縄文人黒潮沿岸地方に辿り着いてやがて定住した。
薩摩や熊野に住んだ縄文人はやがて後からやってきた弥生人に土地を占領されるが
土佐の場合は北部にある四国山脈が巨大な障壁となって他の地方との往来を隔離し
ひとつの独立国の体を為していたはずだ。だからというわけでないが高知の人たちの
容貌が、どことなく縄文人的で目鼻立ちがはっきりしている人が多い気がした。それと
高知の酒好きの人が多いことよ。市内の中に「ひろめ市場」という大食堂と飲み屋を
一緒にしたような市場があり、多くの人が昼間から呑んで食べて議論を交わしている。
高知県人の一人あたりの酒消費量は全国一とかだが、実際に呑ん兵衛を見て頷ける。
自分も日本のあちこちを見たつもりだが、こんな土佐固有というべき風骨は初めてだ。
市場の中は雑踏としているが旅の者にも土地の人は親切で、あれこれと土佐名物の
料理が楽しめる。なかでもカツオの叩きは抜群だ。目の前で藁を燃やして生カツオを
炙って刺身で食べるのが旨い。普段は下戸の自分も生ビールとの相性は言葉もない。
「ドロメ」というカタクチイワシの稚魚をポン酢をかけ生で食べたがこれも相当な美味だ。
なにしろ魚介類の新鮮さは東京では味わえない。話では四万十川では天然うなぎが
食べられるとの情報だったが、今回は時間がなかったので次回の楽しみに取っておく。
孫たちと様々と遊んだ。海沿いのサイクリング、鍾乳洞の探検、ヨットのクルージング、
森のハイキング、高知城公園など、でも年寄りは孫たちと体力に付いていけず疲れた。
土佐は日本の僻地だ。地政学的な要因もあるが昔懐かしい風景がそっくり残している。
街に高層ビルが少なく市電が走り、大型スーパーもなく昔からの駅前通りが存在する。
レンタカーを借りて県内を走れば田舎の景色が手に取れるようだ。山並み、川の流れ、
青い海、田畑は言うまでもなく野辺に咲く花々も素朴な感じで日本の原風景があった。
お遍路さんもときどき見かける。のんびりとした春の旅、四国・土佐ならではの旅情だ。
帰りはANAの飛行機だったが数百年の時の流れを数日で体験した高知の旅だった。