隠居の独り言(1567)

歳を重ねると物忘れがひどくなる。先ほど何をしたか忘れてしまったり、人の名前が
急に思い出せない。家族との対話は阿吽の呼吸があるので、多少の至便さがあるが、
他人様との話でトンチンカンは許されない。情けないが、これが老化というものなのか。
でも最近気付いたことがある。それは記憶力というのは歳を取っても衰えないことだ。
自分はギターの弾き語りが好きだが、楽器を弾きながら歌を歌う場合、歌詞を完全に
覚えてないとサマにならない。楽譜を見ながらの演奏も歌詞と譜面を同時に見るのは
不可能で、どちらかを諳んじてないと弾き語りにならない。昨年までは老人ホームで
慰問演奏をしていたけれど入居者の方が殆ど同世代なので昔の歌、とりわけ軍歌が
評判良く、例えば「天に代わりて不義を討つ・・」という歌詞で始まる「日本陸軍」などは
十番までの最後まで全部歌える。「ここはお国を何百里・」の「戦友」も十四番までだが
何とかいける。ホーム慰問の若い人たちも出来れば入居者の好みに合わせて欲しい。
一昨年前まではラテンバンドに所属し歌詞はスペイン語で詞の意味は分からなくても
原語で歌い、今でも時々弾き語りで歌うのも記憶力向上に役立っていると感じている。
歌を思い出し、改めて覚え声を出して歌うことは脳を鍛える意味でも、また情緒面でも
呼吸器を使った健康法にも、すこぶる効用あるものと自分なりに信じている。最近は
百人一首の暗記をしている。若い時と違って詩の意味があまり分からなかったものも
歳を重ね、様々な経験からしみじみと歌人の詠った心が読めてくる気がしてならない。
それらを継続することが最も大切で、一日僅かでも練習する。徐々に上手になるのも
心嬉しい。老人でも記憶力は衰えず、そして鍛えられることの発見は人生の宝と思う。