小僧日誌 その十四

当時の男の道楽は「ノム・ウツ・カウ」の三つだが、まずその一番目の「ノム」は、小僧は下戸で、お酒は全然ダメ・・酒が百薬の長であることは承知している。晩酌一合、体にいいという。「酒なくて何の己が桜かな」下戸は人生の半分を損していると思う。酒好きの人の飲む姿と楽しさを見ると、酒の飲めない自分が何だか哀れで、一念発起、訓練してみたこともあったが、しかしビールコップ一杯でヘベレケ・・眠くなる。つまりビール一杯で酒乱の状態で遂に諦めた。前にも話したが、月に一度の工賃の勘定日には職人さんが夕方集まって、飲んだり食べたり博打をしたりして親睦を高めるという習慣があった。二番目の「ウツ」は、小僧は花札で覚えた。花札はコイコイが主で、二人の差しのゲームだが、アトサキや丁半もあるので完全な賭け事・しかし花札に関して言えば、トランプが品が良くて、花札が品が悪いという風潮が分からない。昔の座布団前にして勝負に熱中する姿格好は、もろ肌脱いだクリカラモンモンが似合うというイメージがあるからだろう。しかし四季を慈しむ日本人の花札に込めた秀逸なデザインは素晴らしい。一月松から梅、桜、藤、菖蒲、牡丹、萩、坊主、菊、紅葉、雨、十二月桐と続く感性は日本人ならではのカードに託した季節感で大いに誇っていいと思う。トランプに情感が薄い。三番目の「カウ」は、三々五々と職人が帰路に就く途中で当時の色街に足を運ぶ者もいる。戦後の遊郭は赤線(警察が一応安心と地図に赤線を付けた)と称された吉原、須崎、新宿、亀戸、千住ど・・小僧は貧乏で登廓は叶わなかったが、昭和33年に遊郭は廃止になった。しかし表向きはそうでも性産業は変わらず性病や、きちんとした結婚を考えれば公娼制度があったほうが良い気がする。男と女の問題は永久に解決不可だが、せめて事件にしたくない。思えば仕事を覚えながらも色々と遊びも覚えたもので、是非はともかく何事も興味津々だった。