小僧一人旅 その九

中国の「五行説」は「火木水金土」の五つの星が天地万物の全て当てはまると考えられている。小僧は四月生まれの木星。対応する方角は東、色は青、季節は春・・そう、ボクは青春!何かの本で読んだ生半可な知識も迷信もそれを信じることは恐ろしいもので日々の苦労も、それほど感じずに仕事をする。若さはいい、未来がある。裁断士が毎日出でくるということは職人さん一年365日の仕事を切らさずに商いがあるわけで世間を上手く渡れる術のようなものが分かりかけた気がした。裁断、縫製、仕上げの職人のバランスも良く生産数も増えて、原材料、付属品、製品、ミシンなどの在庫品も多くなったので前にお年寄りが住んでいた向かいの部屋を借りることにした。しかし商いは不思議なもので伸びれば伸びた分資金が苦しく、そのジレンマに悩みながらますます生活を詰めざるを得ない。近くの信用金庫に融資を問うたが、担保も無い路傍の石にはとても無理な話で信用金庫から、にべなく断られた屈辱感が、其の後の無借金経営の基礎が出来たと思えば、信用金庫に感謝しなくてはならない。商売も食べられればそれで充分で欲出さず従業員や職人と仲良く仕事が出来れば言うこと無い。「家は洩らぬ程、食事は飢えぬ程にて、足る事なり」 千利休 そんな折、オカズ横丁のおばさんから「いい娘がいるけれどお見合いをしない?」そのご好意には感謝したが未だ所帯を持てる状況でなく固辞したが「会うだけでも」の一言に承諾した。小僧はチョッピリ甘い夢を見た。