小僧一人旅 その十三

東京オリンピックは戦後一つの区切りをつけた出来事と云える。日本人が国際感覚を身につけたのもオリンピックが機になった。外国選手ばかりでなく観光客やマスコミが日本を訪れ賑わった。敗戦から見事立ち直った日本の底力を世界に示した東京五輪。10月10日の開会式は、昨夜の雨が嘘のように朝から快晴で青い空には五輪の飛行機雲を描き、聖火ランナーが火を灯した。体操、水泳、東洋の魔女、三宅、円谷、アベベ、ヘーシンク等々金16銀5銅8の米ソに次ぐ3位の大活躍で日本中が沸いた。小僧は観戦のため初めてテレビを買って競技に興奮していた。そしてこの頃が戦後の一つの節目で、進駐軍司令長官だったマッカーサー元帥、父が好きだった浪曲広沢虎造が亡くなり、新幹線、東名高速、首都高、羽田モノレールなど便利になった。そのような折、職人さんの遠縁の人が事情で新小岩にある家を処分したいとの話で小僧に買ってもらえないかと持ちかけられた。場所は江戸川区松島、総武線新小岩駅から徒歩6分、20坪の土地に築8年の二階家で、価格250万円で売りたいとの事で、物件を見に行ったが西南向きの家で近くの工場が気になったが、将来の所帯のため貯金通帳と相談して200万円にして欲しいと売主に交渉したら、意外にあっさりOKなので小僧は手を打った。高いか安いかは分からない。家は価格よりも利用価値による。新小岩なら仕事場の浅草橋に総武線一本なので通勤も便利。不動産の売買の経験もなく登記所で方法を聞き、職人さんが立会人で司法書士の事務所で相手と互いに手続きを終えた。そして銀行から降ろしたての現金を渡し、土地と家の権利書を手にしたときの感動に全身が震えた。自分名義の家が持てた!これで嫁も貰えるし生活の基盤も出来た。満足感は言葉がない。そして虎の子の大半が消えた。