小僧一人旅 その十五

史記によると、日本の四季は四人の女神が支配していると信じられた。春,佐保姫、夏,筒姫、秋,竜田姫、冬,宇津田姫・・秋の竜田姫は「織物の姫」で錦織の色彩に山野を染めるが、竜田姫はまた「縁結びの姫」であり小僧に近づいた気がした。最初のお見合いから何度か話はあったけれど履歴書だけで×だったり、顔合わせだけで断られたり、それらしい縁談話も何故か途中で立ち消え宙に浮いた。伴侶を選ぶ娘さんには一生を賭ける冒険の決断であり、娘の親御さんにしてみれば、どこの馬の骨か分からない小僧に大事な娘を託すのは難しい。親の気持ちも分かるが、結婚は生涯のロマンであり事業と思う。東京オリンピックも終わった11月のある日「お見合い」の話が舞い込み相手は下町の商家の娘さんとのこと。小僧も独身の納め時と覚悟した。お見合相手は6才年下の本所深川の娘。時は11月中旬の日曜日。場所は上野広小路の「風月堂」で、小僧は約束の一時間前に出て、浅草橋駅から御徒町駅へ乗車するべく歩いていたら道の途中に見知らぬお婆さんが道に倒れていた。小僧は「どうかしましたか?」と訊ねても「うぅぅー・・」と唸るだけで返事がない。これは大変なことと近くの交番までお婆さんを背負って後はお巡りさんに任せ、事情聴取などあって約束時間に大幅に遅れて到着したが、相手の人たちは諦めて帰ろうとしていた矢先で平謝りした。間一髪の時間で、最初から遅刻のミスした待ち合わせに、今回の話も、またダメかと思った。