隠居の独り言 3

梅雨の前ぶれか最近の東京は蒸し暑い日が多く乾燥した日が恋しい。先ほど書き物をしていたら今年になって初めて耳元でプ〜ンと羽音がした。梅雨も近づいてくるとムシムシとした湿気も嫌だが、同じムシでも蚊の襲来は気分が悪い。江戸の自慢はイタリアのヴェネツィアと並んで「水の都」だが多摩川隅田川、中川、江戸川その他掘割まであって風情は抜群だが、考えてみれば蚊の養殖場の気がしてくる。昔は大量に発生し江戸っ子は随分悩んだことだろう。日が暮れると大群がどこからか沸いてきて着物から肌が露出しているところはところかまわず集中攻撃・・多勢に無勢の戦いは、江戸っ子がイキガッテも無駄。草木を焚いて煙で退散をお願いして「蚊遣り」をしたがなんといっても防御策には蚊帳で、夏の夜は過ごした。生活から蚊帳が姿を消したのはいつの日のことだろう。子供の頃には蚊帳は健在でどこの家にも吊っていた。ホタルを蚊帳の中に入れて楽しんだこともあったが蚊帳から出たり入ったりして叱られた思い出も多い。蚊帳はけっこうな重さで吊る際は鴨居の四隅にある吊り金具に掛ける作業は子供には重労働だった。でも半分吊ったときの宙ぶらりんを海にみたてて泳いだりして遊んだ楽しい記憶は今も忘れない。昔の戯れ唄から・・「夏の夜は二つ枕の蚊帳の中 鶴(吊る)と亀(蚊め)とが舞い遊ぶ」