隠居の独り言 12

生暖かい夜はむかし祖母が怪談話をしてくれた事を思い出す。幼いとき、母は叔父経営の料亭に努め祖母が面倒見てくれた。祖母は話し上手で怪談話は怖かった。牡丹灯篭四谷怪談・・そんな遠い昔の祖母より長生きしたが、自分もそろそろ終活になる。地方出身の老人の仕事の一つに自分の入る墓地探しがある。公営墓地はいつも満員状態でたまの募集の抽選も倍率高く籤運の弱いボクには望むべくなく、新聞チラシの墓地広告に目が行くのは年寄りの哀しき習性だが、あの世の土地価格もウン百万円からウン千万円であの世で暮らすのも容易でなく「生きて地獄、死んで地獄」とはこのことで世知辛い世の中だ。自分の人生は最後の決着は自分で付けるのは当たり前だが普段が無信心だけに何を基準に選んでいいのか分からない。町中にあるお寺の墓地は大抵が本堂や別院の裏側にあって墓参りのとき本堂の前を通るので厳かな気持ちになれるのは寺全体の構造がそのように設計されているからに他ならない。寺以外の分譲墓地はいきなり墓石の立ち並ぶ空間に入るが造形的には賑やかでも無機質で心が冷える妙な空しさがある。昔の田舎の墓地は怖かった。殆どが土葬で、怖い感じがした。お化けや幽霊の棲家で、夜間には火の玉が飛んでくるという恐ろしい場所の代名詞だったが現代の墓地は墓石や塔婆が立っているだけでその実感が無い。死者の霊魂の恐ろしさは先祖を敬う心とは表裏一体のものだが宗教心の薄れた今は遠い昔話で、遊園地のお化け屋敷では若者が楽しんでいる。テレビアニメや漫画・水木しげるの妖怪が栄える今の世相はお化けや幽霊も、住み心地が悪くなったと嘆いているだろう。ガキの頃はみんなで寺の墓地でお供え物を盗んで食べたり、石灯篭に巣作りの小鳥の卵を取って食べた悪童だったが、仏様も許して下さり今日も元気で暮らしている。