隠居の独り言 19

世の中が大きく変わったことで様々な情緒も失われた。電車に乗れば年寄りを除いて殆どがスマホに夢中で手さばきよくラインで友人、恋人に意思伝達している。やっかみじゃないが若者が恋人への気持ちそのままストレートに伝えられる幸せを考えた事、あるだろうか。戦後間もない時に思春期だったボクの時代は恋人へ意思を伝えるには付け文による手渡ししかなかった。郵便で出したら誰が最初に受け取るのか分からない。本人に直接渡る確証はとても考えられるものでない。恋文というのは人に見られるのも恥ずかしいもので、それを交換する密かな場所を探すことから始まって、神社の狛犬さんが座る石段の下に置くことに決めた。ここなら誰も気づかないし、雨が降っても濡れない。毎朝、狛犬さんに一礼し、石の下に手を指し入れた。そのあたりの心情は今も思い出しても懐かしいが世の中が不便だったゆえに返って青春の思い出を、より深いものにしてくれたことが今も良かったと思う。やがて電話が一般家庭にも入る時代がやってきた。けれど電話を掛けても誰が出るのか分からないし、親が出れば、どちらさまですか?何の御用ですか?不機嫌な声で応対され、最悪なのは恋人がいても「本人は今いませんよ」と、あっさりと切られてしまう。黒電話はダイヤル式なのでダイヤルを回しながら本人が出ればいいなぁ、もし留守だったら困るなぁ、もし父親が出たらどうしよう、嫌な予感がするときは2,3回ダイヤルして受話器を置いてしまったことも・・そんな苦労したことは平成の若者には分かるまい。遥か遠い青春期・・懐かしさが巡り思い出が蘇る。