隠居の独り言 21

「花の色は移りにけりな いたづらに 我が身世にふる ながめせしまに」佳人・小野小町は人生の時の流れを花にたとえて世の無常を詠った。歳を取ると物忘れや勘違いが多くなるが、日々の生活上でも困る時がある。昔の俳優の名や映画の題など、背景は覚えていても固有名詞が急に出てこないのは愛嬌の内と言っても、以前会ったことのある人に再会したとき名前を忘れて恥をかきそうになるのは困ったもので「先日はどうも」と誤魔化しながら話しを進めているうちに蘇えればいいが、別れてからも思い出せないのは歳のせいだけではない。脳科学者の養老孟司によれば忘れたままにしておくと、いけないそうで思い出す努力を精一杯することが大事で、その時に脳がフル回転して記憶を呼び起こす海馬という部分を鍛えるのに繫がるそうだ。この海馬という細胞は40歳を過ぎると10年毎に5%ずつ死滅していくらしい。神経細胞は二度と再生しないから20年経つと約1割、50年で4分の1になってしまう。つまり90歳になると記憶、想像、応用などの神経細胞が用を足さなくなり、痴呆の症状となり加齢と共にますます加速されていく。といって人さまざまで、辺りの年寄りたちを観察しても、歳より老けた人もいるし若々しさを保っている人もいる。人それぞれに違うのはどうしてなのか。脳の老化現象は誰もが避けられないにしても神経細胞の衰えを遅らせる予防の手立てをするかしないかで随分と差が出てくる。意識の違いで歳相応の適切な運動と知的刺激による機能訓練を絶えず行なえば神経細胞はいつも活性化し脳刺激という意味では芸術に触れるのが良いという。触れるといっても鑑賞だけでなく実践するのがいいのは、いうまでもないが絵画、彫刻、陶芸、音楽、手作り等の指先感覚の刺激が脳細胞の活性化には、うってつけで、生きる目的に芸事を取り入れるのは生きがいに繋がる。老いることも、また楽しからずや・人生の極意はまだ先。