隠居の独り言 52

「虐待を受くれど親に縋るすべなし五歳の許してに泣く」新聞歌壇に載った先日の幼児虐待事件に胸が痛む。熊本の慈恵病院の「赤ちゃんポスト」が出来て今年で10年になるという。自分の産んだ赤子を捨てる親が後を絶たないが、子を育てる気が無いなら、どうして「産む行為」をするのだろうか。ひとときの快楽にせよ、経済的な理由にせよ、その他の理由の如何を問わず女性として母性本能の完全喪失としか言いようがない。人間は万物の霊長で他の生き物よりも優れるはずが、生物たちは種を子孫に伝える事の大切な本能を持ち人間のように子供を捨てる行為は絶対にあり得ない。日本各地には「カバキコバチグモ」というクモがいる。真夏の陽射しも暑くなる頃、交尾を終えた雌グモは産卵用の巣を作り、母グモは100匹ほどの卵から、かたときも目を離さず、孵化を待っている。孵化して数日が経ち、子グモたちが一回目の脱皮がすむと母グモの体に一斉に甘えん坊のようにとりすがる。見た目には駄々っ子がおねだりしているようだが実は母グモの体液を吸っている。母グモはじっと子グモになすがまま意識は次第に薄れて絶命し、半日もすると、母グモは子グモに食い尽くされて完全に消えてしまう。母にとっても、子にとってもカバキコバチグモの悲しくも頼もしい習性がある。そしてお腹を満たした子グモは尻から糸を流して上昇気流に乗って遠いところまで旅立っていく。「一寸の虫にも五分の魂」子のために母は自らを捨てるのは生きとし生きるものの絶対的定めだが五分の魂も欠けた母親たちの失格は虫にも劣る。モノが豊かになることは半面に人間味が失われ、親にとって最も大事なはずの母性本能が欠けて自己本位の骨頂がここまで来ると救いようが無い。先に起きた幼児虐待死の親は子に食事を与えず、シツケと称して幼児に虐待を繰り返していたが、飼っていた犬は動物病院へ連れていったという。何という人間性の喪失、鬼としか言いようがない。