隠居の独り言 78

昨日の夕飯のおかずはサンマで、焼きたては実に美味しい。今年はサンマが豊漁だという。サンマは、冬から春にかけて餌を求めて北へと北上し、たっぷり栄養を蓄え丸々と太ると、今度は産卵の為に南へ南下してくる。北海道の道東沖では、移動するサンマの通り道だからここで水揚げされるサンマはジューシーな脂が良く乗って今が一番美味しい時期“旬”で、秋のサンマのジューシーな脂は言葉に尽くせない味がする。サンマと聞くと思い出すのは有名な落語「目黒のサンマ」でご存知の方は多いが、とりあえず、雲州松江の殿様である松平出羽守が或る日家来を従え屋敷から目黒まで早駆け、目黒不動尊を参拝しての帰り道、にわかに空腹を覚えた。ちょうど昼時で近くの農家からサンマの焼く匂いがしてくる。大名の口にするサンマでないが空腹のうえ焼いたばかりのサンマの味は今まで食べたことがない最高の美味に感激!江戸中のサンマを買い上げ大名仲間に講釈を並べたてる。負けじと黒田の殿様がサンマを買ったが家来が気をまわし塩気と脂を抜きサンマを調理したから不味いのこの上ない。怒った黒田候が松平候に文句言うと「して貴殿はどこからお取り寄せで?」「家来に申しつけて房州の網元から・・」「ああ、それはまずい、さんまは目黒に限る」これがオチ。ところで江戸時代の将軍や大名はどんな食事だったか。基本的には一日二食で、二の膳つき、一汁三菜であり、しかも侍従が必ず毒見するので常に冷めた料理だった。その点は一般庶民の方が美味しく食べていたことだろう。「目黒のさんま」が落語として成立するには条件が二つ。まず世間知らずなお殿様、落語は大衆が楽しむ演芸で日常に殆ど関係のないお殿様が狂喜するのが滑稽で、二つ目、サンマが焼きたてで食べたのが殿様の感激でその二つが上手くマッチした。名作落語の一つだろう。落語も最近はご無沙汰だが、この秋は堪能したい。来週の日曜日9/9日には品川区の目黒商店街では「目黒のさんま祭り」が開催され、岩手県宮古市から提供の7千匹のサンマが無料で振る舞われるという。今年の秋も食欲から深まっていく。