隠居の独り言 98

「私に若さをくれるなら全財産をあげてもいい」松下幸之助   それほど若さは貴重なものなのに、その最中は輝く価値に誰もが気が付かない。ボクは今メキシコ作曲家ララの名曲ソラメンテ・ウナ・ベスSolamente una vezの練習をしている。歌詞は「人生にただ一度だけ私は恋をした、ただ一度だけ」歯の浮くようなセリフだが、メロディーも美しくうっとりとする。ラテンは恋の歌が多いが、ラテン人特有の性格なのだろう。いい歳をして今更恋の歌もないものだが演奏するだけでも気分は高揚するし、精神的な若返りの一つだと思っている。いったい人間は何歳まで恋の心を持ち続けるものだろうか。恋愛の基本は生殖本能と自らの子孫を残すことが目的で気に入った相手を探し良い形で成就したいのが理想であり、これが恋の原動力となって相手を巡り闘争本能が芽生え、種の進化に結びついて恋が成立するが、殆どの動物には繁殖期が決まっていて其の時を終えると急速に生命力が衰えて死を迎える。夏の終りに全うしたセミの亡骸を見るとその潔い姿は基本的に野生動物には老化現象が全く無く、人のように老いに悩む事もありえない。人は繁殖の役目を終えてもそれから長く生き続きかつ異性を求める気持ちは生涯を終えるまで持続する。まことに厄介な動物といえる。実際に女性は10歳頃から性線刺激ホルモンという物質が分泌され思春期に入り50歳頃にはホルモン分泌が止まり、生殖機能は殆どストップして身体的な恋の季節は終わる。同じように男も女のような劇的変化は無いけれど、確実に生殖能力は衰えていく。その後は子孫を残すこともなく、生き延びるが「老人と性」の問題は、諸刃の剣のようで、老人それぞれの持つ性格や品格に大いに左右される。けれど動物と違って最も人間らしい「純愛」と言う異性を求める崇高な精神もこの辺りから出てくるのではないか。身体的には老いても脳が恋を欲することは心がときめき気持ちに張りが出てホルモンの分泌も活発になるのは元気の秘訣と思う。老いてなお、恋をしよう。