隠居の独り言 101

秋も深まったので久しぶりに両国橋袂にある「ももんじや」のイノシシ専門の料理屋に入り味噌煮込みの猪鍋を食べたがクセが無く煮込むほどに柔らかくとても美味だ。玄関脇には本物の猪が一頭ぶらさがっていて、いかにも専門店らしいが鹿や狸の料理もあり、その辺りの「通」には評判がとてもいい。「ももんじい」というのは熊、猪、鹿、猿のケモノの昔の異称で,店の名前もここから出たものだろう。創業は江戸期というから昔からの老舗であるに違いない。今は結構な世の中になって何でも食べられるが、その昔は仏教の教えで日本では肉食は禁じられたというのが通説というが、この説はアテにならない。日本人はあらゆる動物を食べていたのは遺跡から分かるが馬、牛、豚の家畜から、野生の熊、猿、鹿、猪、兎、鳥などの殆どを食べていた。しかし表向きは仏教の殺生の理由から肉食忌避であったから、これらを「薬喰い」として、猪を牡丹、鹿を紅葉、馬を桜など季節の風流な花の名で口にしていた。兎は羽のような大きな耳で飛ぶからあれは鳥かもしれない?だったら1羽2羽と数えよう。「理屈と膏薬は何処へでも付く」ちゃんこ鍋の具肉は原則が鳥だが、相撲は相手に負けると四つんばいになるので、四つ足は鍋に入れると縁起が悪い。だから手の着かない二本足の鳥肉が今も基本になっている。一万円札の福沢諭吉は幕末のころに牛や豚を食べたという自伝録があるし、その影響で慶応義塾の学生たちが日本で初めて牛鍋愛好者になったらしい。宗教的な肉食忌避では、インドのヒンズー教では牛は神聖な動物として食は禁止だし、イスラム教は豚肉と、その他にアルコールもいけないという。インドで生まれ肉食を禁じたお釈迦様も日本に渡来すれば日本人の卑しい食欲が先行して、今や日本食の美味しさは世界の人々が認め人気を呼んでいる。山の幸、海の幸など種類が多く季節感があり、新鮮、清潔で何でも食べられる日本人は幸せだ。食欲の秋、今年も存分に味わいたい。