隠居の独り言 105

秋「灯火親しむの候」最近の若い人の読書はおろか新聞も読まない傾向でPC、スマホ、TVなど簡単に情報や娯楽が得られるから余計にひどい。私事を書くのもはばかれるが、戦後間もない小学高学年頃は食糧事情が最悪で、日々の暮らしは食べるため農家の手伝い、買い出し、貝や魚獲り、戦後の食糧事情は、当時を生きた人でないと体感的には分からないと思う。農家はいざ知らず、町に暮らす庶民は米や芋は貴重な贅沢品で滅多に口にすることも無かった。戦後間もなく亡くなった祖母も「白いご飯が食べたい」と、口癖のよう話したが願いは遂に叶えてあげられなかった。あの悔しさと悲しさは思い出す度に涙が出るが、当然に学校は不登校になり・・それでも卒業証書だけは頂いた。救いは家に本が沢山あって暇を見ては読み漁っていた。吉川英治島崎藤村田山花袋森鴎外夏目漱石など・父が読書好きで出征中に残してくれた本を小学生には意味も分らず読んだのが、今でも心の栄養になっている。当時の本屋は新本も無くお爺さんが暇そうに座っていた。今の本の多さから想像もできない。でもそれが良かった。学歴は無くても、普通に生き、物事の善悪を誤ることなく少年時代の読書が糧になったのは一番の収穫と思う。太陽に感謝し月を愛でる何気ない感情も読書が出発で、恋のときめきも、失恋の苦みも全て文章が癒してくれた。今の恙ない生活も読書が肥やしと思う。人生は有限だ。この世の無尽蔵な知識や体験を知ることは不可能で、そこで読書によって情緒をはぐくみ善悪の判断を養い人間の基礎を作るには読書が何よりの処方箋と思う。子や孫が幼い頃、文字や言葉の知識を吸収するには最も大切な時期と思い、その子に合った本を買い与え読む習慣を付けることにしたのは良かったと述懐する。大人としての言葉の良し悪しは国語力を涵養する事で本の中から感動や知識も身に付き言葉に発揮出来る。良い本を読もう。言葉の美しさは、その人を美しくする。