隠居の独り言 110

ギターを始めて30年は過ぎたのに、未だ腕前はドヘタで演奏年数が恥ずかしい。クラシックギターは地味な存在で楽器の大きさの割には音量も小さく人前で弾くには相当なテクニックが必要だ。その上、ギター曲は一般に馴染み薄く有名なのは「禁じられた遊び」と「アルハンブラの思い出」・歳を重ねた50代の半ばころ、第二の人生は道楽に趣味の一つも持たねばと、近所の村治ギター教室の門を叩いた。ギターは難しく一、二年で挫折して止めてしまう人も多いが、ある日、村治昇先生から「音のいいギターにしませんか」と薦められ虎の子を叩き、「河野ギター」を70万円で買ってギターを続けることにした。せっかくお金を掛けたのだから元を取ろうと賤しい動機で練習励んでも上達するはずない。教室に通う生徒さんの中には「ハウザー」や「フレタ」など数百万もする楽器を所持している人もいてギターに掛ける情熱は域を脱して尊敬に値するが、なかには高額楽器を何本も所有するマニアックな人もいるのには驚かされる。師匠の愛娘・村治佳織はスペイン「ホセ・ロマニリョス」の特注品で演奏するが、彼女のように飛びぬけた才能ならいざしらず、一般人が高額な楽器を所持するのは殆どが自己満足のようで、演奏会で楽器の演奏を聴かされても、その価値が分かるのは普通の素人の耳には難しいだろう。でもギターはどんな高額な楽器でも価格は1000万円位で、ヴァイオリンのストラ・・等の名器の数億円もする値段には到底敵わない。日本人のギター好きは世界の楽器の3割を所有しているというから、よほど性に合っているのだろう。けれど中古になれば価格の下落が早い。骨董品的価値にならないのは楽器が大きい割には表面の木の厚みが薄く構造的な欠陥があり、演奏できる状態を維持できるのは150年位だという。ギターの奏でる美しい哀愁の音色は、人間の寿命の年数にも似た無常観が、聴く人の共感を醸し出しているからだろう。