隠居の独り言 150

幼い頃の記憶力は侮るべからず。85歳を過ぎた今でも戦前の教育勅語の文言や、天長節明治節などの詞は今も淀みなく言える。文言ばかりでない。家族と楽しんだ「いろはかるた」も暗記、百人一首も半分以上覚えている。幼い頃の脳は柔らかく記憶が素直に入って貯蔵能力は優れているが歳を重ねる毎に脳内の記憶を司る容量がいっぱいになり新しい事は覚えられないのは悔しい限り・今では「かるた」や「百人一首」の風雅な遊びは姿を消し、現代の子供は効率万能、機能一本槍の情報ジャンルのスマホゲームやスロットマシーンに夢中になっている。某大学の某教授が学生達に茶目っ気ある宿題を出した。いろはかるたの「おうたこにおしえられてあさせをわたる」の意味を書きなさい。平仮名づくしの問に某学生が回答「漁師が仕掛けた壺で眠り込んだ大きな蛸が潮が引いて目を覚まし浅瀬を渡って逃げ出した」珍解答に抱腹絶倒の教授だったが「卓越した想像力に敬意を表する」と書いて愛弟子に返したという。戦前に育った子供は家にラジオもテレビも無く、まして子供向けの雑誌や漫画も少なかった。遊びといえば昼間は近くの原っぱで日暮れまで駆け回り、雨の日には家中で花札、双六、コマ回しに夢中になった。素朴だったけれど現代の子供より充実感あった気がする。講談社が発行した月刊雑誌「少年倶楽部」は人気抜群で、ガキ仲間で順番回しで読んだ。作家も一流で吉川英治は「神州天馬侠」「天平童子」を連載したが、江戸川乱歩は「怪人二十面相」、高垣眸「怪傑黒頭巾」、一流小説家が揃い踏みして少年の心はわくわくした。漢字もルピつきで難しい漢字をいっぱい覚えさせてくれた少年倶楽部だった。今の本屋は沢山の本に溢れ何を読んでいいか分からない。貧しい時代だったが中身の濃い文庫本を何度も読み返し、本も読まれ過ぎて紙質も擦り切れたが、本冥利に尽きた。思い返せば、あの頃の読書があって人生の面白味を知り今があると自負している。孫娘に百人一首を教えている。どんどん覚えるが、爺も頭の体操で一緒に勉強している。孫娘も大人になったら、きっと爺を思い出してくれるだろう。