隠居の独り言 173

文化庁が以前に発表した、一般公募をして、その中から選んだ「親子で継ごう 日本の歌100選」があるが、美しい日本の歌を継承していく試みはとてもいいことだと思う。世代を問わず親しく口ずさめる歌は「赤とんぼ」「さくらさくら」「海」などの古い歌から戦後のヒット作の「上を向いて歩こう」「いい日旅立ち」「秋桜」や平成に入って2001年の夏川りみの「涙そうそう」や、2005年にSMAPが歌った「世界に一つだけの花」までの100選を見ると、実にいい歌が選ばれている。これは小中学校の音楽の教材に率先して先生が生徒に教えて欲しいものと熱望してやまない。歌詞は日本語の極みでメロディは情緒的で日本人ならではの情感に満ち溢れているが、現在使われている音楽の教科書は昔の歌が極端に少なく「戦前全て悪」の思想がこんなところにも影響されてアニメの歌や最近作られた反戦歌まがいの歌が多く、歌っている子供たちを聞いているのは、なんともやりきれない。役所ひとつも文化庁文部科学省の考えがこうも違うとはいくら縦社会といえども由々しき問題で教育の中に折角の美しい歌の文化が反映されていないのは何故か。聞くところによると歌詞の文語体が難しいからだそうだが、それでは教えてあげればいい。国文の勉強になるしそれが教師で出来ないのは資格を質したい。例えば三木露風の「赤とんぼ」は ♪夕焼け小焼けの赤とんぼ、負われて見たのはいつの日かだが「負われて」を「追われて」と解している人が多いが、三番に出てくる「ねえや」か「母親」かの想像するのも情緒の教育の一環と思う。露風は幼い時に両親が離婚するが、この歌も彼自身が失われた愛の哀しさを詩にした。その辺りを子供たちに説明する情操教育にはうってつけの歌だ。学校の卒業シーズンも100選の中に昔の卒業式の定番の曲の「仰げば尊し」が入っているのも嬉しい。小学校を卒業した時の「仰げば尊し我が師の恩 教えの庭にも はや幾とせ」は涙する。恩師・川崎先生は卒業式でボクに答辞を読ませてくださったし、進学が叶わないボクを憐れんで、何度か我が家を訪れ両親に勧めてくださったことも今は懐かしい思い出として大切に思う。ボクに願ってもない、良き恩師に巡り合えたのは幸せだった。日本人に生まれた幸せを、歌に託して継いで欲しい。