隠居の独り言(187)

久しぶりにTVを見て感動した。土曜日の夜のNHKBSの二時間番組で
渥美清の肖像・知られざる役者の人生」だ。彼が亡くなって早10年が
過ぎたが昭和3年生まれの軌道は当然に戦争の渦中に巻き込まれ戦後の
苦労のなかで10代でテキヤの世界に入り友人の無残の死をきっかけで
足を洗ったが次に勤めたストリップ小屋のコント稼業も人気が出てきた頃
結核を病んで挫折を経験する。その後の役者人生は大きく伸びてついに
「寅さんシリーズ」で一世を風靡するが晩年にはガンに侵され志半ばで
永眠するまでの彼の生涯には胸がジーンと来た。人生には誰もが暗い影を
落とした部分があるが自分の人生に重ね合わせて酷似しているのは辛い。
貧乏のために学校の弁当も持って行けない欠食児童で一家の支えのために
学校よりも働きに出なければならず結局はテキヤ稼業に手を染めたのも
若い日に胸を病んだのも自分の過去を見るようで、懐かしさや悲しさが
こみあげてTVを食い入るように見つめた。彼の履歴は今更でもないが
監督の山田洋二や作家の神坂次郎の回顧話しを聞くと天才的な役者だった
渥美清はこれまでの苦労を人前には微塵も出さなかったそうで晩年の
「寅さんシリーズ」の最中に医師から肝臓ガンの告知を受けても知らぬ
顔で作品を完成させたと云う。彼の粋なモダニズムの昭和も遠くなったが
その背景から培われた根性は同じ世代に生きた者同士として戦友のように
思えて映像に涙したが、その生涯を称えたい。寅さん、ありがとう。